top

blog

かきたいことがたまったので

おこんばんは。
ボーカルのさえぐさです。
ついったの個人アカウントを削除して幾星霜。
こちらでブログを書くつもりだったのに、それもやらずに幾星霜。

書きたいことが溜まったので、今日は書きます。

※※※※

この3日間ばかり、いつもとはちがうところにいた。
北関東の景色は、自分のよりどころなのだと思う。

身体を、いつもとはちがう環境に置くことで、みえてくることがある。
ぽっかりとしたこころ。
悪い意味じゃなくて、ぽっかりと空間があく。

通勤電車の車窓を眺めているときも感じる「ぽっかり」だけど、
その何倍もの広さを持つような、隙間。

いつも詰まっている色々が、なくなる。
いつも詰まっている色々な情報が、ごっそりこそげ落ちるから。

枯れた畑。雑木林。何かを燃している灰色の煙。
杉林の間に射す光。白い電線を並走する3羽の鳥。
空。森。赤く色づく森。
斜面をかける子鹿。
群れをなす羊。えさを売る自動販売機の音だけで、かけよってくる。
ひとりで草を食む白い子馬。
手がかじかむほどの風。
夕方、日の入り、八百万の神を想像させる山並み。
とおくひかる街の明かり。
オレンジの光のつぶつぶ、そこまでの距離。
山道をくだるバス、足下の暖房、固めの座席、片道1000円を超えるバスの運賃。
あのつぶつぶの騒がしさと、この山並みの静けさは、つながっている。
わたしが見ていない時間も、
この山には朝がきて、昼がきて、日の入りがきて、夜がくる。
人になつくことのない野良猫。
だれもいない駐車場。
わたしが見ていない時間にも、この山には雲の影がおちる。
山並みをなぞるように。
その細部をみれば、バスの車窓を通りすぎた、杉林の間を縫うように落ちる、太陽のひかり。
黄色、赤、だいだいにそまった山。
降るように落ちる水滴。
落ちてきた圧倒的な水流は、下へ下へと、流れて行く。
その横を沿うように歩く。
熊のいる平原。よく鳴る鈴を持って。
見知らぬ人とすれちがう度にあいさつをかわして。
広がるすすき。名も知らぬ草、苔、樹木、
ひらけた先に吹いてくる冬の風。

いつもいない場所、わたしのしらない場所、わたしの知らない時間、
わたしのいない時間、誰1人みていない時間、誰1人顧みないかもしれない時間、
その場所に、朝はきて、昼はきて、日の入りがきて、夜がくる。

誰1人かえりみなくても、美しい一瞬が、そこかしこに生まれて、消えて行く。
なんのためでもなく。だれのためでもなく。
何かの決意があるわけでもなく。何かを誇示したいわけでなく。
ただ、いる。ただあって、うつくしいという名も与えられずに、消えて行く時間。
消えて行く一瞬。

それを、いつもそこにはいない私が、その場所にお邪魔して、
少しだけ、その場所にいる人になって、
その一瞬を、その景色を、その場所を、「うつくしい」と思うこと。

ただ、ある、ということに、とても興味があることがわかった。
ある、ということ。そこに存在してくれるということ。
わたしがみていなくても、だれがみていないくても、あの山の中で、
あの馬は、今日もきっと草を食んでいる。
手足がかじかむような風が今日も吹いていて、
よく晴れた今日みたいな日にはきっと、山に雲の影が落ちている。

滝から滑り落ちる水流は川をつくって、平原を流れる。
光るような緑をたずさえた苔や水草は、その水流にたたえられながら、今日もゆらいでいる。

そうやって、思い出す。うつくしいと何のてらいもなく、口からすべるように言葉が落ちた。
そのうつくしさが、また、こころの部屋をひとつ、増やしてくれた。


昔、昔、何度もみたあの北関東の風景の中で、
ひとりぼっちの時間をたっぷり持てたことは、やっぱり、必要だったなと思う。
誰に言われたわけでもないのに、勝手にひとりになって、ひとりにがんじがらめになって、
考えて、考えて、考えたあの時間につくられたこころの部屋。
その部屋が大きくなったのか、その部屋とは別の部屋ができたのか、わからないけど。


いつもの場所に帰る道々、車窓のすぐそばにあった山は、いつのまにか、
どんどん遠のいて、いつのまにか、みえなくなった。

山や田畑や雑木林や雑然とした庭をもつ家々がみえなくなった途端に、
急に眠気がおそってきて、まぶたが落ちた。

足下の暖房のあたたかさ。ちょっと固い座席と、片道1000円を超える運賃。



いつもの場所にかえってきたけど、こころがまだちゃんとぽっかりしている。


※※※※


どんな思想でも、どんな思い出でも、どんなふうな矜持を持っても、いいんだと思う。
彼女のことをうたっても、彼氏のことをうたっても、生きることを歌っても死ぬ事を歌っても、
恋愛のことでも家族のことでも、セックスのことでもドラッグのことでも、
どんなことを歌っても、いいのだと思う。

ただ、わたしがどんな矜持を持っていようと、それはあるはるかの音楽には関係がないな、と思う。

だけど、わたしがどんな矜持を持てるのか、どれだけこころの部屋を増やせるのか、は、
わたしの歌に出てしまうな、と思う。

選ぶのは聞いてくれる人。

わたしがきちんと生きたかどうかは、わたしのステージに出てしまう。
だから、あるはるかの音楽を損なわないように、より豊かな音楽を鳴らせるように、
わたしはきちんと生きたい。

だけど、きちんと生きようが生きまいが、セックスに溺れようが社会不適合だろうが、
全うに税金を払っていようがいまいが、恋愛に溺れようが、昔の色恋を忘れられなかろうが、
どんな物語があろうがなかろうが、
選ぶのは、聞いてくれる人。

物語も込みで選ぶのも自由。物語なんてくそくらえで選ぶのも自由。
だけど、選んでもらうためには、存在しないと、選ばれないから。
ちゃんと、存在しないといけんのだと思う。
だから、わたしはきちんと生きたいなと思う。

※※※※

かえりみられない時間、だれも知ることのない時間、その場所のうつくしさを思って。


さえぐさ